安心の財産形成術

収益還元法とキャップレートとは何か?また、比準価格(取引事例価格)との違いとは?

最近、自称・不動産評論家だの不動産投資コンサルタントだのといった輩が世の中に増えてきて、みなさん勝手なことをおっしゃっている。日本国民が彼らの怪しい言葉に惑わされることなく、不動産投資を通じて着実に資産形成を行っていくためには、基本である不動産鑑定理論、中でも収益還元法の考え方を正しく理解することが必須である。

「いやぁ、私は不動産投資なんてまったく考えていないよ」という人もいるだろう。しかし、ちょっと待て! そういう人でもマイホームは買っている、あるいは買おうと考えているのではないだろうか。マイホームは数千万円という非常に大きな買い物。これは立派な不動産投資なのだ。つまり、一般消費者といえども不動産投資と無縁ではいられない。

そこで、一般消費者向けに、敢えて難しい専門用語を取り上げつつ、“山崎式”不動産鑑定理論を解説していくことにした。

不動産鑑定理論には重要なキーワードが5つある。まずキーワードをきちんと押さえておこう。

不動産鑑定理論の重要キーワード5つ

キーワードがきちんと使いこなせているかどうかでその人の知的レベルがわかる。これが正しく使えない人の話は聞く必要ナシ。不動産コンサルタントの選別にも有効だ。一般消費者にとっても、マイホーム選びに役立つので最低限押さえておいてほしい。

比準価格(取引事例価格)≒Price
現実のマーケットにおける取引事例を参考にした対象不動産の売買が成立するであろう値段、価格。

対象不動産の周辺で、最近同じような物件がいくらで売れた、それに比べるとこの物件は駅からもっと近いからもう少し評価が高いだろうといったことで決まる。市場心理に影響されて乱高下する経済的根拠のない価格。

収益価格(収益還元価格)≒Value
他の資産を運用した場合と比較して、対象不動産に期待されるべき理論上の価格。

不動産が生み出す賃料などの収益性から導いた適正価格。つまり、普遍的な経済合理性に基づいて求められる。販売価格と収益価格との乖離が少なければ少ないほど、その物件の販売価格は適正と考えていい。

限定価格
対象不動産に隣接または同一需給圏内に居住等する者にとってだけ価値が高くなる場合などに成立する価格。言い換えれば、「地縁によって利益が生じるときに成立する価格」。

山崎式では「地縁利益加算法」という造語で説明する。たとえば、中小企業の社長が、工場のそばに社宅を建てたいと以前から考えていた。そんなとき、工場の隣にまとまった土地が売り物として出てきた。売主は社長の足元を見て相場の1.5倍の価格を提示したが、この社長は言い値で買ってしまった。普通ならそんな割高な値段で買う人はいない。社長がなぜ買ったかというと、工場の隣にこれだけの売り物がでる可能性が極めて低かったから。工場に隣接して社宅を建てるためにはこれを買うしか選択肢がなかったわけである。このように地縁によって価格がつりあがってしまう限定された条件下での価格が「限定価格」である。また、借地権者と底地権者との間で成立する場合も考え方は、これと同じ。

積算価格
対象不動産が完成するまでに必要とされるコスト(土地取得費+建設費など)によって導かれる価格。

土地をいくらで仕入れて、そこに材料費をいくらかけて、工賃として職人にいくら払ったかという尺度で不動産が成立するまでのコストを足し算した結果。つまり、需要や経済状況などとは関係なく、単純にコストを積み上げただけの価格といえる。

最有効使用(山崎式では最有効利用)
同一需給圏内におけるニーズに最も適応している状態。住居系不動産を例にとれば、最も低コストで最も高い家賃で貸せる、または最も高い価格で売れる不動産(共用部分も含めた居住空間)において認められる状態。なお、注意すべき点は、この概念に時系列的な視点が必ずしも考慮されていないことである。すなわち、長期的最有効も、短期的最有効もあるということ。

自分が不動産開発のプランナーになったつもりで、与えられた敷地にどんな建物を建てれば「最も高く売れるのか」あるいは「最も高く貸せるのか」を考えてみるといい。プランナーであるから、当然コストの観点も重要。いくら高い単価で売れてもコストが高ければ儲からない。一定の利益が見込めるようなプランでなければ着手する意味はないわけだ。

賃貸マンションに投資するファンドや投資家の視点でみると、一定の利回りを確保しつつ所有し、最終的には転売利益も期待する。ここでは、その街がどう変わっていくか、将来の予測も判断要素に加わってくる。こう考えると、最有効プランは街や立地によってまったく違ってくると理解していただけるのではないだろうか。

また、時の経過につれても変わってくる。いわば、不動産は生き物であって、環境が変われば価値も変わる。それを表す概念が最有効使用である。

※なぜ「利用」なのか
不動産は単に所有し続けて「使用」するためだけのものではなく、時にはさっさと転売してしまうこともある。その場合の日本語は「使用」ではなく「利用」であるから、山崎式では、「最有効利用」という。

収益還元法とは?

キーワードで4つの不動産価格を説明したが、それぞれの不動産価格には必ず根拠があるので、どれが正しくてどれが間違っていると一概には言えない。山崎式では「収益価格」を重視している。

実際に、収益価格の求め方を押さえておこう。

収益還元法
収益還元法には主に直接還元法とDCF法があるが、基本的な計算式は、
「収益価格=年間純収益÷キャップレート」で導く。
DCF法は特に価格や金利動向の予測を盛り込んだもの。

収益還元法の本質は、「不動産の資産価値も、金融資産のそれも、価値(Value)の根拠は収益性にある」ととらえることにある。ある不動産を同じ程度のリスクの金融商品と比較したとき、不動産のほうが優位であれば、「その不動産を買うべき」という意思決定ができるのだ。

しかし、現実に知ることができるのは、売り手が付けた価格(Price)だけ。そこで、その物件が賃貸として利用された場合、いくらでなら貸せるか=賃料から年間純収益を見積もり、それを基準にして、その不動産の資産価値(Value)を求めるのである。

年間純収益は、「年間賃料-諸経費(固定資産税、都市計画税、管理費、修繕積立金など)」で計算する。固定資産税の予想は難しいので、簡略化して管理費と修繕積立金を引くだけでもいい。純収益ではなく、賃料×12カ月の表面利回りで計算してもいいが、当然、評価が甘くなる。一般消費者がマイホーム取得を前提に考える場合、要は、あまり細かいことにこだわる必要はない。

キャップレートとは?

収益価格を導く公式にある「キャップレート」とは何か、どうやって求めるのだろうか。

キャップレート
キャピタリゼーションレート(資本収益率)または還元利回りの省略語。キャップレートの構成要素は、「リスクフリーレート+リスクプレミアム」による。
リスクフリーレートとは、主にカントリーリスクの低い国の国債または長期金利などを参考にして導くものとされる。
リスクプレミアムとは、リスクの高いとされる不動産に対して上乗せすべきレート。

キャップレートは「期待利回り」ともいい、ひと言でいえば、その資産に投資するなら年利何パーセントの利回りを期待すべきなのか、ということである。利回りは高いに越したことはないと考えがちだが、利回りが高いということは、それに見合う分だけリスクも高いということに他ならない。金融商品を思い出してほしい。ローリスク・ハイリターンの商品などあり得ないと誰でもわかるはずだ。

不動産の場合、キャップレートは物件固有のものではなく、その物件が立地する街ごとに異なる。つまり、街のリスクを数値化したものである。

比準価格(取引事例価格)との違い

不動産鑑定のプロと自称する方々の中には、キャップレートを取引事例から導いて、物件選びの基準に用いる人がいる。

収益価格を導く公式    「収益価格=年間純収益÷キャップレート」

の順番を変えて、     「キャップレート(期待利回り)=年間純収益÷物件価格」

とすることはできるのだろうか。単純な数式であれば正しいが、この場合はノーである。

この式で算出された数値は、期待利回りではなく、現在売られているプライスからみた結果論でしかない。ここに注意してほしい。

<例1>

  • 物件A 2000万円 東京郊外 3LDK 賃料10万円
  • 物件B 2880万円 東京都心 2LDK 賃料12万円

誤った計算をすると…

  • 物件Aの利回り   10×12 ÷ 2000 = 6%
  • 物件Bの利回り   12×12 ÷ 2880 = 5%   →Aの方がお買い得

実際には…

郊外の物件Aは入居者が見つかりにくく、経年劣化によって賃料が下落しやすいというリスクがある。逆に都心の物件Bは入居者が見つかりやすいのでリスクが低い。

収益還元法をマイホーム選びにどう使うか?

収益還元法の理屈はおわかりいただけたと思う。では、実際のマイホーム選びにこの考え方を使うにはどうするのか。賃料はインターネット等で情報を集めればわかるだろう。

しかし、キャップレートが決められない。キャップレートというブラックボックスが存在しているから、収益還元法を効果的に活用することができないのだ。

そこで、現時点(2010年末)においてキャップレートを求める山崎式の公式を紹介しておこう。

キャップレート=-0.16×標準月額賃料(万円)+9.6

ここで使う「標準月額賃料」は、同一需給圏内のファミリータイプのマンションの賃料を広さ80㎡あたりに換算して用いる。

ほとんどの住居系の物件にはこの式が適用できる。ただし、家賃35万円以上の都心の超一等地や家賃10万円未満の地方都市郊外では使えないので注意してほしい。

<計算例>

  • 家賃10万円だったら -0.16×10+9.6=8.0
  • 家賃20万円だったら -0.16×20+9.6=6.4
  • 家賃35万円だったら -0.16×35+9.6=4.0  →概ね4%から8%の間となる。

ファミリータイプのマンションの購入の意思決定に使うときは、この公式で導いたキャップレートを用いてその物件の収益価格を計算する。そして、収益価格(Value)÷販売価格(Price)で点数を付けてみるといい。検討中の物件の資産価値を点数化することで、異なるエリアの物件も比較することが可能になる。購入するなら、70点以上が好ましい。

<例2>

  • 物件A 販売価格3000万円 東京郊外 3LDK 賃料10万円 キャップレート7.0%
  • 物件B 販売価格3000万円 東京都心 2LDK 賃料12万円 キャップレート5.0%

物件Aの収益価格=10×12 ÷ 0.07 = 1714万円
物件Aの点数= 1714/3000 =57点         →物件Aは非常に割高

物件Bの収益価格=12×12 ÷ 0.05 = 2880万円
物件Bの点数= 2880/3000 =96点         →物件Bは妥当な価格

収益還元法は、リスクの高い物件はキャップレートを上げるという評価方法である。この特性をうまく使って、投資の意思決定に使ってほしい。

対象物件が古い場合の注意点

収益還元法は、対象物件が長期間長持ちする、つまり居住空間が長期間維持されることを前提としている。そこで、古い物件も新しい物件も同じ尺度で考えていいのかという疑問が生じるだろう。

同じキャップレートを使うと、築年数にかかわらず、賃料が同じ物件の収益価格は同じになる。築30年と新築が同じでいいのか。将来を考えれば、築30年の物件をこれから維持していくにはそれなりにお金がかかるはずではないかということだ。

鑑定理論には、もちろん建物の減価を考慮する方法があるが、一般消費者のみなさんは、そこまで理解する必要はない。

中古物件の場合、現状の修繕積立金では将来にわたって建物を維持管理するのに不十分だと予測される場合は、修繕積立金を独自に修正して加算してほしい。「やや心配」なら現在の2倍、「非常に心配」なら現在の3倍といった基準でいいだろう。管理組合の修繕積立金が潤沢な物件であれば問題はない。

投資用物件に用いる際の注意点

ここまで、マイホーム選びに収益還元法を使うことを前提として、できるだけ簡単に誰でもできそうな方法を説明してきた。本来、収益還元法は投資用の尺度に使われるものである。投資用で考える場合には、原点に立ち返って、空室率と管理費、原状回復費または修繕費、その他諸々の諸費用を細かく計算して盛り込む必要がある。

特に投資家は借金をして不動産投資をする人が多い。借金をすると利回りの高いものを狙うことになる。当然、利回りの高いものほどリスクが高い。借金する人ほど安全なものを買うべきなのに、逆になっている。この矛盾に気づいてほしい。どこかの不動産コンサルタントに騙されて劣悪な物件を買う人が多いのは、借金しながらリスクの高いものを狙わざるを得ないという矛盾を解決できていないからだ。

不動産投資では長期ローンを組むので、長期的な賃料の安定性をみて物件を選択しなくてはいけない。少なくとも30年は衰退しない街を選ぶことだ。街選びに失敗すると、いくら利回りの高い物件であっても失敗することが目に見えている。投資用物件でもマイホームでもこの点は同じである。

借金をするリスクに関して、本音をいえば、一定以上の自己資金を入れて不動産投資をすることが望ましい。しかし、それは難しいのが現実である。

不動産投資のリスクを回避するには最終的には売却しかない。だから、将来的に賃料がどれくらいまで下がるのかを予測し、「どんなに落ちぶれても最低限これくらいでは売れるだろうという額」までしか借金はしないこと。債務超過になったらどうしようもない。

※東京のエリアごとの物件価格の下落の度合い=「価格の減価率」について、詳しい分析結果を知りたい方は、『東京マンション資産価値予測DATA BOOK』(ダイヤモンド社刊)を参照されたい。

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