山崎研究室

山崎隆の虚実妄言

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 【雑感(その1)】

~「お金に困らなくなるマイホームの買い方・つかい方」への“おわび”~

平成20年11月某日。
拙著「お金に困らなくなるマイホームの買い方・つかい方」が巷を騒がしています。
週間現代、フォーブス、サンデー毎日などの週刊誌の取材を受けたので、何かと皆さんの
目にも触れていることでしょう。

しかし、本書が、たくさんの人々の心を傷つけているらしいのです。

私は、下町や臨海埋立地の不動産の資産価値について否定的な見解を述べました。
それに対して、アマゾンの書評などで、辛辣なご意見も頂いているのです。
差別的で、偏向的で、快適な住環境への視点が欠如していると…。

まずは、そういう方々に謝りたいと思います。

私は、夢のマイホームに期待する国民の心を砕いてしまった。
客観的なデータと歴史をもって不動産を語ることが、いかに危険なことか。
多少、認識が甘かったのかもしれません。
たくさんの敵を自らつくってしまいましたが、もう遅い。自業自得です。

ただし、私は嘘をつきたくなかったので、できるだけ客観的な事実を著しました。
FP(ファイナンシャル・プランナー)なので、純粋に財産形成に役に立つことだけに焦点を絞って、
内容を煮つめたりもしました。
コンサルタントは中立的でなければならないので、不動産業界に都合の良い内容に誘導し
た訳でもありません。

それ故、同時に、不動産の資産価値が下落するエリアに物件を所有する人々の“感情”に
も配慮していないのです。そこに賛否両論の原因があります。

ですが、財産形成の世界こそは“感情”ではなく“論理”の世界です。
誰もが抱く郷土へのノスタルジーへ、微塵の配慮もしてはならないのです。
そんなことをしてしまっては、街歩き番組(アド街ック天国など)になってしまう…。

コンサルタントとしての私は、主観的な世界観には関心がありません…。
おらが村の自慢話などを伝えても、まったく資産運用の役には立たないからです。

だから本書は、財産形成に関心が無い人か、あるいは財産形成に失敗して後戻りできない
人が読んではならない書物なのです。
辛辣なご意見は、たぶん、そういう方々から受けたのでしょう。

本書の主旨は単純明快です。

不動産選びの極意は街選びである。
ファミリータイプの賃料相場が低い街の不動産は、資産価値が下落し易い。
新しく開発された街は、衰退するのも早い。

統計的な論拠をもって単にそう説明しただけであって、他意は無いのです。

ただし、価格が下落した中古物件を買うならば構わないとも補足をしました。
また、一等地でなくても“最有効利用”の物件を狙う選択肢もあると説明しました。

ですが、昨今は、都心優良エリアの物件でも、中古物件なら値ごろ感があります。
4千万円台から流通しているので、普通のサラリーマンなら予算に適うでしょう。

私は、一応、フォローしているのです。
東京の港区、渋谷区だけがすべてではないと…。
全国各地に将来も有望な優良物件があるのです。

賃料相場が高い街にある物件は、資産価値が高いとみなされる。
この視点は、今では金融業界や不動産業界の常識です。
これは“収益還元法”という評価法で考察すれば誰でも理解できる真実です。

ただし、住居系不動産を収益還元法で評価すべきでないという意見もあります。
それはそれでも良いことだと思います。
つまり、「賃料を生まない不動産にも資産価値がある」。
そういうことを肯定しているのですから、収益性ではなく、換金性だけに注目して意思決定すればいい。

財産には、そういう特性を持ったものもあります。
例えば、プラチナや金です。
これらの貴金属は、不動産の賃料に相当する利息や配当を生みません。
あるのは“キャピタルゲイン(又はキャピタルロス)”だけです。

プラチナは、工業用の触媒として非常に貴重な鉱物資源です。
溶かして加工すれば、きらびやかな宝飾品にもなります。

不動産も、高温で溶かして加工すれば、ペンダントにできるかもしれません。
コンクリートや鉄の首飾りが美しいか否かは、主観的な世界観に任せたいと思います。

さて、それにも増して意外だったのは、
“感情”に起因する支離滅裂な反論があったことです。

「埋立地は、現在の進んだ土木技術からすれば安全なのだ」というご批判です。

できれば、国土交通省や地方自治体のハザードマップを見てから批判して欲しかった。
別に、地質学や土木の専門書を読まなくても良いのです(私は、読んでいますが…)。
私が話をでっちあげている訳ではないことがご理解頂けるはずなのです。
たぶん、その読者は、埋立地の物件を所有しているのでしょう。

私は、悲しいことに“嘘つき”呼ばわりされていますが、事実無根です。
そうなると黙っている訳にはいかないのです。

ですが、よく考えてみると、これらの論理的でないご批判の矛先は、
その相手を間違っているのではないでしょうか。

本来は、ご批判の矛先を向けるべき相手は、企業利益の優先で事実を伝えてこなかった広
告代理店やマスコミ、あるいは不動産業界に向けられるべきではないか…。

私は、そう思うのです。

例えば、売買契約書に付帯する重要事項説明書に、こう書くべきだったのです。
「本物件は埋立地に立地しているため、震災時にはライフラインの寸断等が起こる確率が高く、防災
活動に支障が出る可能性があります」と…。
それを記載しなかったディベロッパーに責任があるのです。

ですから、私への容赦ないご批判は、まさに濡れ衣なのです…。

老婆心ながら、皆さんには、忠告をしておきたいと思います。
それは、素人の方が不動産を扱うということが、いかにリスクが高いかということ。
不動産というものは、瞬時に数千万円という資産的損失を出してしまうもの。

そういう代物なのです。

皆さんの“転ばぬ先の杖”になること…。
それが、私たちコンサルタントの社会的な使命なのです。
真実を伝えたいがために、嫌われることを恐れていたら、何もできません。
一方で、私を絶賛する方々もいらっしゃるのです。

でも、賛否両論が沸き起こるのは快感ですね、ちょっと…。
私は、誰にでも好かれようとは思っていませんから…。

知識や経験、情報の判断に価値があるということに気づかない人は、いつまでも失敗を繰
り返すことになるでしょう。安全は、タダではありません。

リスクというものは、見えない人にとっては、意識の中ではリスクではない。
最初から見えないのだから、最後まで絶対に見えない。
その人の心の中にはリスクは存在しないのです。

リスクとは、未来に起こり得る潜在的な危険性…。
リスクは、幽霊のようなものなのです。
見える人には見えるし、見えない人には見えない。

素人と玄人の違いは、まさにそこにあります。
玄人は、潜在的なリスクを顕在化して、コストに変換できるのです。

もしも、皆さんが、悪霊うずまく不動産業界を相手にするのなら、
見えないものが見える“霊能者”に用心棒を頼むことをお薦めします。
この霊能者の武器は、超能力ではなく、知識、経験、イマジネーション、人脈などです。
それらを論理的に使い分けることができます。

もちろん、自分で一生懸命に勉強するのも一方法です。
それなりの効果はあるでしょう。

もしも人生設計を左右するような高い買い物をするのでしたら、
どちらにしても、知的な判断能力こそは、財産形成の必需品なのです。

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