山崎研究室

山崎隆の虚実妄言

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「エリア別データ2万件の定量分析による-東京マンション資産価値予測 DATA BOOK」の書評について

こんにちは! 草薙ミサトです。AFP資格とりたて、FP会社に転職したての駆け出しFPです。実は私、山崎隆先生の大ファンで、本当は山崎先生の事務所に弟子入りしたかったのですが、「百年早い! 勉強して出直してこい」ということで、門前払いをくらってしまいました。それでしぶしぶ他のFP会社に入社して猛勉強中というわけ。

このまえ、アマゾンで山崎先生の本の書評を見ていて、納得できないコメントを発見! 反論してやりたいんだけど、私にはちょっとムリ… この愚かな書評をどう解釈したらいいのか、今日は山崎先生に教えを請うために、訪ねてきました。

Amazon.co.jp より

30年前と今で、同じマンションが建設されていると信じるならどうぞ, 2010/4/17 By 大学院生(マサチューセッツ)

 データ分析には、基本的な知識が必要です。
 この本では、各エリアごとに、新築物件と、築30年の物件を比較して、古くなるほど、坪単価が下がる、下がらない、という分析を、延々とやっています。そして、下がらないエリアを、良いエリア、投資向きのエリア、としています。比較は、30年前の価格と今の価格を比べているのではありません。今の新築と、今の築30年を比較しているのです。もし、今、30年前と、同じグレードの物件が再び建築されているなら、この比較は正しいのですが、実際には、新旧物件のグレードは違います。しかも、その違いは、地域によって、ばらつきがあるのです。
  例えば白金高輪のように、新駅が出来て人気化すると、新築物件はグレードが高く、坪単価が高いモノが売られることになります。築30年の中古も、値上がりしますが、こちらはエリアが人気化する前の建設ですからハコ自体はスタンダードです。よって、最近人気化したエリアでは、新旧物件の坪単価の差が大きく計測されます。逆に、最近、人気が落ちたエリアでは、新築物件のグレードが低いため、新旧物件の価格差が小さく見えることになります。
 よって、この本の仮説は不正確で、新旧物件の価格差が大きい場合、成長エリアの可能性がある、そして新旧物件の価格差が小さい場合、衰退エリアの可能性がある、ということなのです。

また、本人の妙な歴史観(東京の発展は軍主導?)があって、戦時中の軍事施設の説明ばかり。現在の不動産価格にとって重要なのは、昔、軍の倉庫があったかどうかではなく、暴力団の事務所があるか、風俗営業があるか、学力の高い最寄りの小学校の生徒数が減少して廃校になる可能性があるかどうか、ということです。

  • ミサト:
    先生、なんとか言ってください。
  • 山崎:
    この書評の意味がわからない。こんなド素人に答えることはできないよ。いつも言っているように、正しい答えは正しい質問からしか生まれない。反論する価値すらない。論理的な思考力が無いんじゃないかなあ・・・。
  • ミサト:
    そうですよね。でも私、このままではすっきりしないんです。私に教えるためと思って、お願いですからこの書評の間違いを説明してください。
  • 山崎:
    うーん…仕方ないな。

ということで、山崎先生の大反論がスタート! しっかり勉強させていただきました。
この場をお借りして、私、草薙ミサトが先生に代わって、反論させていただきます。

あなたは鑑定理論を知らない。そもそも「プライス(Price)」と「バリュー(Value)」がわかっていない。あなたのいう「グレード」って何よ? グレードが高いから坪単価が高くなるだと? そりゃあ高い材料を使えば積算価格は上がるよ。でも、それはプライスであってバリューではない。この本で扱っているのはバリュー、すなわち鑑定理論でいうところの、収益価格とか比準価格(取引事例価格)。積算価格が上がれば、収益価格が上がるなんて聞いたことがない。そもそも、積算価格という用語も知らないのではないかしら。

たとえば、ど田舎にハイグレードの建物を建てて高く売れるか? 売れるわけないよね。ところが、東京の港区だったらグレードの低い建物でもそこそこの値段で売れる。不動産の価値って街の魅力で決まるわけでしょう。

不動産の価値にはソフトとハードがあって、ソフトの部分=街の文化的・文明的基盤に魅力を感じて買う人もいれば、ハード=建物が気に入って買う人もいる。当然、ハードの部分は減価償却して価値が下がっていくんだけど、街に魅力があれば、価格が落ちるスピードが遅くなる。逆に街にまったく魅力がなければ、どんなに豪華で間取りがよくてもどんどん価格が落ちていく。山崎先生がこの法則を発見して、それを検証したのがこの本なんだよ。

大学院で何を勉強してるんだか知らないけど、山崎先生の本にケチをつけるんなら、鑑定理論ぐらい勉強してからコメントしてちょうだい。

ついでに「最有効」の考え方も教えてあげよう。これも不動産鑑定理論だけど、あなたは「最有効使用(山崎式では最有効利用)」の概念を理解していないようだね。古いマンションで間取りが流行のものでなくても、その居住空間がその街に暮らしたいと思う人のニーズに合っていることが重要なんだ。だから、最近はリノベーションした物件がヴィンテージマンションなんてもてはやされて高く売られている。わかるかな?

そうそう、“チバリーヒルズ”(千葉市緑区あすみが丘・ワンハンドレッドヒルズ)、知ってる? バブル期のど田舎・ハイグレードの象徴だよ。あんなど田舎では、あなたの言うグレードの高い家であっても二束三文、いまだに晒しモノになっている。現実を見たまえ。

最後にもう一つ、山崎先生の歴史観についてもなにやら言っているようだけど、まったくのたわごとだね。街は歴史で見ていかないといけない。その街の歴史が不動産価格に影響しているのは紛れもない事実。郊外のニュータウンがゴーストタウンと化してしまった例はたくさんある。だけど、歴史のある街は残っているでしょう。

街の歴史ってなにかというと明治以降の近代史、つまり富国強兵、殖産興業の歴史。その中で造船や航空、発電など軍需産業を中心に京浜工業地帯の原型ができあがったわけ。

そもそも東京の都心が軍用地だらけだったということを知らないのかな? 日比谷公園も代々木公園も練兵場。六本木のミッドタウンは陸軍歩兵第1連隊で、国立新美術館は歩兵第3連隊。二.二六事件の反乱軍はここから出でいったんだ。再開発地区の豊洲は江戸時代末期に端を発する石川島播磨(現・IHI)の造船所、横浜のみなとみらいは三菱重工の造船所。電気メーカーだと思っているだろうけど、川崎駅前に工場があった東芝だって、武蔵小杉のNECだって元々は軍需産業だ。東京の大規模開発用地はほとんどすべて、元は軍事施設だったり軍需産業の用地だったといっても過言ではない。

ここまでいえば、軍需なしに街の歴史は語れないとわかってもらえたかな。ベトナム戦争後、日本に平和な時代が訪れて、軍需施設や技術を民需に転用。さらに円高で民需の工場すら日本国内では成り立たず、どんどん住宅や商業施設に転用されているのが現在の姿だよ。不動産を見るときは、歴史的文脈で見ないといけない。その街がどう変わっていくのか、未来を予測するためにはまず歴史を知るべき。教養として近代史は必須だね。勉強して出直してコイ!

もっとも、この本はプロ向けに書かれたものだから、素人さんには理解できなくて当たり前だった。1万500円出して買ってくれたのは嬉しいけど、ドブに捨てたようなものだね。読む本を間違ったのはお気の毒としかいいようがない。

あーすっきりした。ちょっと過激だったでしょうか。
草薙ミサト、これからもFPの仕事の中で出会った筋の通らない考えや間違った意見、無知による誤解を徹底的に正していきたいと思います。

どうぞよろしくお願いいたしまーす。

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